「共同体全体の罪」8/1 隅野徹牧師

  8月1日説教 ・聖霊降臨節第11主日礼拝・平和聖日・聖餐式
「共同体全体の罪」

隅野徹牧師
聖書:レビ記4:13~26

説教は最下段からPDF参照・印刷、ダウンロードできます。

 日本基督教団では、8月の第一聖日を「平和聖日」と定めています。太平洋戦争で、日本中が大きな空爆を受けましたが、とくに人類史上に残る大きな被害となった「広島・長崎の原爆投下があった、8月上旬」のこのときに、戦争の悲惨さを風化させず、逆に、聖書が教える「本当の平和とは何なのか」を覚えるために、この礼拝をもっています。

 まず、今回の箇所と関係がありますので、私達が所属している日本基督教団の成り立ちをお話しします。記念誌の復刻版でも林健二先生が詳しく触れておられますが、日本基督教団は戦時下の日本政府の政策がきっかけで成立しました。それは、1940年(昭和15年)に施行された「宗教団体法」でした。国から宗教団体として認可されるには、施設数50箇所以上、信者数5000人以上でなければならないという制限がつきました。これには、国体を揺るがす「秘密結社」を取り締まるという目的と、特高警察など国の監視が行き届きやすくするという目的がありました。

 宗教団体法の施行からわずか一年、1941年6月に創立総会が行われ、約30教派のプロテスタント教会が合同して日本基督教団は設立にいたりました。   

 さらに10月、皇紀2600年奉祝全国基督教信徒大会が開催され、日本中から多くの信徒たちが積極的に参加し、祈ったという記録が残っています。キリスト教界全体が、自らへの弾圧を恐れるあまり「天皇を中心とする軍国主義国家」を肯定してしまったのです。 この後、弾圧を受ける、ホーリネス教会の教師や信徒もまた「天皇制を積極的に肯定」し、誠実な国民、天皇の臣民であることを実践していたのでした。 

キリスト教界全体が、国家や軍部に協力的な姿勢を示したことで「これで自分たちへの迫害はないだろう」と思う空気が流れていたといいます。しかし、ホーリネス系の教会・教師を標的にした弾圧が実際に起きたのです。

1942年6月26日の早朝、特高警察は全国のホーリネス教会に一斉に立ち入り、牧師96人を「治安維持法違反容疑」で一斉に逮捕したのでした。当時の日本基督教団の幹部は助けるどころか、残りの教会を維持したいという思いから、弾圧された人々を切り捨てるような発言をしてしまったのです。

 世の中に迎合すること、時の支配者に迎合することを選び取ることによって教会を守ろうとした、その思いは、実際にその時代にいなかった私達にはわからないものがあります。しかしながらはっきりと分かることがあります。それは「世の中に迎合すること、時の支配者に迎合すること」が、非常時にあって教会を守ることにはならないことです。これは教訓として覚える必要があると感じます。           

その後、日本基督教団執行部は検挙されなかった教師も含めホーリネス系教師全員に「教師辞任願」を出すように強要し、従わない場合は教師籍を剥奪すると通告しました。結果、元日本聖教会の教師は184名が辞任願を提出しました。その影響で、多くの教会が解散に追い込まれました。                              

その後、戦争が終わり、日本基督教団の執行部が謝罪をしてきて、辞職願を出させた「ホーリネスの教師たち」を復帰させました。そして執行部と和解をし、日本基督教団内に留まる決断をして現在にいたっています。

私や瞳牧師は、日本基督教団の中の「ホーリネスの群」の神学校を卒業しています。ですので、この事件を風化させずに語り継ぐ責任を担っていると考えます。とくに、なぜ教会が軍部政治を肯定するというようなことが起こってしまったのか、その過ちを「聖書の教え」に照らし合わせて語っていく使命を追っていると考えるのです。

前置きが長くなりましたが、今回与えられている、聖書の箇所から大切なことを考えてまいりましょう。               

 今回の聖書箇所は、旧約聖書「レビ記」です。

レビ記は、「掟や規定」だけが並んだ堅苦しい書のように思えます。しかし、その内容は、とても奥深く、新約聖書につながる教えが出ているのです。とくに「礼拝の守り方」について教えています。

皆さん聖書をお開きでしょうか。レビ記4章ですが、2節にあるように「過って主の戒めに違反した場合の規定」が「モーセを通して神から伝えられた」という形で記されています。

 その中で、今回は13節から26節を取り上げます。前半の13~21節にはイスラエルの民全体が「過って犯した罪」を神に赦していただくために、何が必要なのか?について教えられます。

後半の22~26節には「共同体の代表者」が過って犯した罪について、同じように神様に赦していただくために、何が必要なのか?について教えられます。

いずれの場合も、「赦していただくためにすべきこと」、つまり「当時の礼拝ささげかた」は同じです。それは、いけにえの動物の頭に手を置き、人間の罪の身代わりになることを確認する儀式を行うのです。そのあと屠る、つまり殺すことをし、その血をまくのです。そして「脂肪や内臓をとりのぞいてから」、燃やして煙にすることが教えられています。  

はっきり言ってここに書かれている内容が「気持ち悪い」と感じない人はほとんどおられないことでしょう。しかし、旧約聖書は「人間がその犯した罪を覚え続けるために、そして神の前に赦されるためには、本当はこれほどのことをせねばならないのだ」と教えるのです。

新約の時代、神は人間の罪が赦されるために「完全ないけにえを」自ら備えてくださいました。それが神の独り子イエス・キリストです。イエス・キリストは十字架の上で血を流し、肉が裂かれて死なれました。

この後持たれる聖餐式の式文にもそのことがはっきりと出てきますが、私たちはキリストの犠牲の死の恐ろしさ、惨さを直視しているでしょうか?レビ記を通して、「人間がその犯した罪を覚え続けるために、そして神の前に赦されるためには、本当はこれほどのことをせねばならないのだ」という神からのメッセージを心に刻みたいと願います。

さて、この箇所で教えられているのは、「過って罪を犯したときの、いけにえの献げ方」つまり「礼拝の仕方」なのですが…そもそも「過っておかした罪」とは一体なにでしょうか?そのことを考えましょう。

故意に犯した罪はレビ記の別の箇所で教えられています。故意ではないなら、その責任は厳しく問わなくても良いのではないか?と思われるかもしれません。しかしここで対象となっているのは「その行為をしたとき、正しいとおもってやったこと」や「その行為が罪だと気付かなかったこと」などです。

 そして今回の箇所で教えられているのは「イスラエルの共同体全体が過って犯した罪」、そして「共同体の代表者が過って犯した罪についてです。これは、イスラエルの民全体が「これは正しい!」と思って進んだことが、神の御心にかなわないことだったりした場合です。また「罪を犯していることを代表者や民全体が気づかなかった」ことなども含まれるのです。

 戦前の日本も、侵略戦争に突き進みながら、その行為を国の為政者だけでなく、国民全体も正しいと思い込みました。それだけでなく、冒頭でお話ししたように、教会やキリスト者の多くも「罪だ、間違いだ!」と気付きませんでした。しかし、後になって、「あの時日本の教会が全体で戦争に加担したのだ」ということに気づかされたのです。戦後、多くの教団が、戦争を止められなったことを「自分たちの罪」として認め、告白しました。

 聖書は、この世で起こることに対して「知らなかった」「自分は無関係」で済ますことを教えてはいないのです。むしろ目を向け、心に留めることを教えています。開かれなくて結構ですが、(旧約聖書の、箴言24章11~12節の言葉を紹介いたします。お聞きください)

死に捕えられた人を救い出さず 殺されそうになっている人を助けず「できなかったのだ」などと言っても 心を調べる方は見抜いておられる。魂を見守る方はご存じだ。

 「過って犯した罪」は共同体全体に問われるのです。私たちが正しいと思ってした行為が人を傷つけていたり、また罪を犯したことに気づかずにいる、ということは多くあるのではないでしょうか。そのような罪があることを神の前に素直に認めつつ、悔い改めてまいりましょう。 それが平和への第一歩だと感じます。

 「自分の考えに絶対間違いはない!」そういう傲慢な考えが広がる今の世の中だと感じます。多様性が重んじられるのはよいことですが、しかしあまりにも「自由に意見を言いすぎる」人が増えているように思います。そして「発言しっぱなし」で、発言に間違いがあったと気づいても意地でも謝らない空気が広がっています。それが「対立を深める」「壁を生み出す」原因になっていると私には示されています。

今回のレビ記の御言葉から「自分のせいではない、悪意はなかった」と思ってもそれが神の前で赦しを請わなければならない罪である場合があることを心に刻みたいと願います。

一人の人が、神の前にへりくだり、自分の罪を悔改めたなら、それは周りの人にひろがっていきます。 どうか、そのような主にあっての証しが、用いられるように。そして世界が再び間違った方向に進まず、少しでも主の喜ばれる方向に進むように祈ってまいりましょう。(祈り・沈黙)

≪説教はPDFで参照・印刷、ダウンロードできます≫

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