「罪に定める人は誰か」6/19隅野徹牧師

  月19日 聖霊降臨節第3主日礼拝
「罪に定める人は誰か」隅野徹牧師
聖書:ヨハネによる福音書 8:1~11


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 今日から山口信愛教会の主日礼拝で続けて読んでいた「ヨハネによる福音書」からのメッセージに戻します。随分間が空きましたが、これまで7章の終わりまでを読み進めましたので、今週は8章1節から11節をまでを読みます。

さて、今回の箇所全体に「かっこ」が付けられていることにお気づきでしょうか?この「かっこ」は、ヨハネ福音書の古い写本の多くに「この部分がない」ことを意味しています。しかしこの話がかなり古くから伝えられていたことは確かです。この箇所がルカによる福音書の21章の終りに置かれている写本もあるようなのです。つまり元々「ヨハネ8章」にはなかったかもしれないけれども、イエス・キリストのお姿を印象的に伝えている話として大切に読まれてきたのです。

この話でポイントになるのは、「イエス・キリストとは一体何者か?」ということです。今回の聖書箇所のお話を「イエスがピンチを知恵によってうまく乗り切った話」として捉えてはなりません。今回の箇所でイエスが話される言葉や行為は「人間の罪を全て背負って十字架の死へと向かわれる救い主である」ことを何より表したものなのです。深く味わってまいりましょう。

まず2節から5節をご覧ください。 

イエスが神殿の境内で多くの民衆に対して教えておられた時のことです。いきなり!律法学者やファリサイ派の人々が「姦淫の現場で捕えられた女性」を連れてやってきたのです。民衆からしてみれば「なんだ突然に!!」と感じる、ドタバタ劇だったことでしょう。

姦淫の罪とは何かというと…結婚ないし婚約している人が、自分のパートナーではない他の異性と性的関係を持つことです。旧約聖書から一貫して教えられていますが、神は祝福された夫婦関係を保ち、家庭を築いていくことを良しとされます。「姦淫」は、その神にあって祝福されるべき夫婦関係、家庭環境を壊す行為であるために「大きな罪として」定められたのでした。5節にファリサイ派や律法学者たちが言っているように、旧約聖書では「姦淫の罪を犯した者は、石で打ち殺されなければならない」とされていたのです。

ただ、この律法は「女性の側だけでなく、姦淫を行った男性も石で打ち殺す」ことが教えられています。この女性と関係を持った男性はどこへ行ったのでしょうか?

 逃げた、という説もありますが、その男は最初から「ファリサイ派・律法学者がイエスを陥れるために協力した、共犯者だった」という説もあります。

私はそちらではないかと考えています。 そうでなければ、「姦淫の現場」に堂々とファリサイ派・律法学者たちが踏み込むということはできないと思うからです。               

この女性は罪を犯した加害者というよりは、「巧妙な罠にはめられた被害者だ」と私は考えます。 ファリサイ派・律法学者たちは、この女性をつかってイエスを罠にはめようと、質問をしたのです。

6節の前半をご覧ください。彼らは、イエスを訴える口実をなんとか見つけ出そうと躍起になっていたのです。

もしイエスがこの女を赦せと言われたら、「イエスは律法に反することを教えたのだ!」といってユダヤ人の最高法院に訴えようとしたのでしょう。逆にイエスが「この女を石で打ち殺せ」と言われたら、その時はユダヤを支配しているローマ帝国の総督に、「総督の許可なしに人を死刑にせよと言った!」と訴えようとしていたのです。 

このように「どちらに答えてもイエスを窮地に陥れることができる…」そのような罠だったのです。

そんな悪意に満ちて近づいて来る者に対してイエスはどう対応なさったのでしょうか?それが6節の後半に記されています。  

 なんとイエスは、「かがみ込み、指で地面に何か書き始められた」と記されています。何を地面に書かれたのか…これまで多くの節が挙げられてきました。しかし何を書かれたかより「イエスなぜ地面にかがみ込まれたのか」そのお心に注目する方が大事だと、伝統的に理解されてきました。

ここでのイエスの行為は「女をだましてまで、ご自分を陥れようとしている彼らの罪を深く嘆く思い、そして悪意に満ちた問いには答えたくないという態度」それらを表していると理解されてきましたが、私もそう思います。

罠にはめる質問、いわゆる「悪意のある誘導尋問」をしてくる人間は相手にしたくないですし、答えたくないのが普通です。しかし、それでもイエスは「たった一言」お答えになったのです。それが7節です。

 イエスは「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」とおっしゃいました。それだけ言うと8節、再び身をかがめて地面に書き続けられたのです。

律法学者やファリサイ派の人々は、罪人であるこの女を石で打ち殺すことが「神に従う正しい信仰の行為だ」と信じていました。自分は正しいことをしていると思っている時、人はいくらでも残酷になれるものです。

今起きている戦争はそのことを思い返せます。  

しかし…「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」というイエスの一言によって、自分自身を顧みることを迫られたのです。これを聞いて、「私が真っ先にこの女に石を投げる」と言った者は一人もいませんでした。

9節10節、そして11節の前半をご覧ください。「年長者から始まって、一人また一人と、立ち去ってしまい」イエスとこの女だけが残ったのです。

イエスが話された言葉が「神の独り子・救い主としての権威のある言葉だった」イエスがうまいこと答えられたから、彼らが「論戦に負けそうで、帰っていった」のではありません。イエスを貶めようとした者たちが「その罪に気づかされる」力があり、迫力があったのです。

その後、イエスは身を起こして彼女に、「婦人よ、あの人たちはどこにいるのか。だれもあなたを罪に定めなかったのか」と言われ、彼女は「主よ、だれも」と答えました。

「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」という主イエスのお言葉によって、その場は女とイエスだけになったのです。しかし、この女の罪を本当に裁くことができる方、別の言い方で「自分を罪に定めることができるただ一人のお方」が彼女の前に立ったのです。

「彼女を石で打ち殺す資格のある者は人間の中には一人もいない!」ということがここではっきりと表されています。しかし同時に、イエスは「あなたは罪なんか犯してはいない。気にしないでよい」とは仰っていないことも分かります。

「あなたを罪に定めなかったのか」と仰ったり「あなたを罪に定めない」と仰っていることから分かるように、この女性の罪を認めておられるのです。

だまされたのだからこの人の姦淫は別に罪じゃない、とは仰っていません。彼女自身「神のみ心に背き、人をも裏切っている、重大な罪を犯している」ということに目を向けさせておられます。

そういうイエスの「神の子としての威厳」、「愛するゆえの厳しさ」に触れて、彼女は「この方こそ、自分を本当に罪に定め、裁くことのできる方だ」ということに気づいたのです。「主よ、だれも」と彼女はこたえていますが、目の前に去らずに残られたただ一人のお方を「主」として認めているのです。

私たちは神、そしてイエス・キリストを、特に何も考えずに「主」と呼んでいるということはないでしょうか?

この場面に登場する女性は「自分の人生の本当の主」と告白しています。悪い人の罠にかかり危機一髪助け出してくれたから「主」なのではありません。

そうではなく「この方と出会うことによって、これまでの自分の犯した罪に気づかされ、新しく生まれ変わろう」という気持ちに導いてもらったから「主」なのであります。           

私達もこの女のように、イエス・キリストを「主」とする告白を心からささげてまいりましょう。そして「この方と出会ったことによって、自分の犯した罪に気づかされ、新しく生まれ変われた」恵みを噛みしめましょう。

 最後に11節の後半に注目してメッセージを閉じます。

イエスは女に、「わたしもあなたを罪に定めない。行きなさい。これからは、もう罪を犯してはならない」とおっしゃいました。

罪を犯している彼女を裁くことのできるただ一人の主「イエス・キリスト」が、「赦しの宣言」を言って下さったのです。

この罪の赦しの宣言は「口先だけのもの」ではもちろんありません。この言葉の背後には、イエスご自身がこの後間もなく追われる「十字架の苦しみと死」があるのです。

「あなたの人生の主であるこの私が!あなたの罪を全て背負って十字架にかかって死ぬ。それゆえに私もあなたを罪に定めない。だからこの後、あなたは特別に罪赦された恵みを覚えて、新しく生きなければならない!」そのようにイエスは仰っているのではないでしょうか?「行きなさい。これからは、もう罪を犯してはならない」というお言葉によってイエスは、彼女を「十字架による罪の赦しにあずかって生きる新しい人生」へ送り出されたのです。

私たちの罪も、究極はだれか他人が定められるものではなく、イエス・キリストだけが定めることができるものです。しかしそのお方は私たちの罪を裁くのではなく、その罪を背負って十字架にかかって死んで下さり、罪の赦しを与えて下さるのです。「赦された恵み」を深く心に刻んで、この先歩んでまいりましょう。

(沈黙・黙祷)

 

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