「イエスの涙を忘れない」10/4 隅野徹牧師

  10月4日説教 ・聖霊降臨節第19主日礼拝・聖餐式
「イエスの涙を忘れない」
隅野徹牧師
聖書:ルカによる福音書19:41~48

説教は最下段からPDF参照・印刷、ダウンロードできます。

 山口信愛教会の礼拝では、続けてルカによる福音書からのメッセージを聞いています。今19章の40節まできました。今日は41節から48節の部分を味わいます。ここで描かれる「神の御子イエス・キリストのお姿」は、他の箇所で描かれるお姿とは違っています。

 ここで描かれているイエスの姿は大きく2つです。①号泣されるイエス、そして②エルサレム神殿で商売をしていた人々を追い出されるイエスです。

 私が以前、保育園や幼稚園に関わっていた頃、こどもたちに「イエス様ってどんな方ですか?」と聞くと、判で押したように「優しい」という答えが返ってきていました。優しいお方であるのは間違いのないことですが、しかしイエス様は「ただ優しいだけではない」のです。愛があるからこそ、怒られることも、感情をあらわにして悲しまれることがあるのです。

 今日の聖書箇所を通し、イエス・キリストがどんなお方なのか、皆様に新たなことが示されることを望みつつ、お語りします。

 まず、先週のおさらいをします。28節から簡単に振り返ります。(P147をお開き下さい)

 この場面は所謂「イエスのエルサレム入城」の箇所です。神の子イエス・キリストは、イスラエル北部のガリラヤ湖周辺で教えを宣べ伝えられたあと、いよいよ都であるエルサレムに入られるのです。そのとき「子ろばが用いられた」ことが35節までで語られています。

 36節以下はエルサレムの人々の反応です。ルカは他の福音書記者と違う「独特な視点で、この場面を描いています」が、基本的には、「人々が熱狂して、イエスを迎えた」ことが分かります。

 とくに36節です。「人々が、イエスの進まれる道に上着を敷く行為」は、尊敬を表す行為です。イエスをメシヤとして、また「新しい王として」受け止めていたことが分かります。

 この時、エルサレムの人々は「イエスを大歓迎していた」のであって、まだ「十字架にかけろ」などと叫ぶ雰囲気は全くありません。しかし、イエスはこのあと起こることをすべてご存知なのです。

 それでは今朝の聖書箇所を詳しく読んでまいりましょう。

 まず41節~45節の部分です。

 まず41節です。 エルサレム中が見渡せる場所に近づいたとき、イエスは「泣かれた」のです。

 イエスが泣かれる箇所で有名なのはヨハネ福音書11:35の「ラザロを生き返らせる」場面です。そこでは涙を流されたと記されています。一方で今回の箇所のイエスですが、少し涙を流されたのではありません。声を上げて泣かれているのです。「号泣」といってよいでしょう。

 その「号泣」の直接の理由は43節、そして44節の一つ目の文にあります。

 ここで予見されているのは、エルサレムが敵によって包囲され、徹底的に攻撃され、壊滅するということです。これは実際に紀元70年に起こったのです。エルサレムはローマ軍によって壊滅し、神殿も破壊されたのです。

 この出来事がなぜ起こってしまうのか、それをイエスは2つの点で仰っています。

 1つ目は42節です。「平和への道をわきまえていなかった」ことです。2つ目は44節の後半です。「神の訪れて下さる時をわきまえなかった」ことです。

 平和への道をわきまえるとは一体何でしょうか?それは「外交政策」や「軍事政策」といった、人間的な努力をすることではありません。そうではなく「創造主である神の前に立ち返ることで、被造物である人間一人ひとりが、罪を赦してもらい、和解していただくこと」それがイエスの言われる「平和への道」です。

 その平和への道が、エルサレムの人々には見えなくなっていたのです。正しくは「見ようとしなかった」のです。

 この場面の時代まで、神は何度も「平和の道」をエルサレムの人々に示されていました。預言者を通して、そして御言葉を通してです。諸外国に対しうまく立ち回ることではなく、「神に立ち返り、罪を悔い改めること」こそが、本当の平和の道だ!そのことを何度も何度も示してこられました。しかしイスラエル・エルサレムの多くの人は受け入れませんでした。

 ついに、神は、ご自分の独り子であるイエス・キリストを「イスラエル人として」送られました。このイエスを通して「本当の平和に至る道」を直接、示されたのです。そこで教えられたのは「徹底的な愛による平和の道」でした。

 「敵を憎み、敵を打ち負かして戦いのない状態にしてもそれは平和ではない。本当の平和とは、まず神との関係を修復すること。そして神が私たちを愛してくださったように、敵を愛し受け入れることである…」そのことをイエスはずっと教え続けてこられました。

 それなのに、イスラエルの人々はこの時、イエスのことを「ローマ帝国の圧政から、解放してくれる政治的指導者、王」として捉え熱狂していたのであります。「イエスを先頭に、ローマと戦おう」とする姿勢…それが結果的に「エルサレム崩壊」を招くことになるのです。

 せっかくイエスが示して下さった「恵みの教え」を拒んでしまうことは、44節にあるとおり「神がせっかく訪れてくださろうとしている、その時」を逸してしまうことなのです。

 神が私たちに対してなさる「平和の招き」、それはいつまでもずっとある訳ではない、ということは今日の箇所が示す大切なことだと理解します。

 時を逃してはなりません。 神は再三再四、イスラエル・エルサレムに対し「ご自分と和解するように」招いておられましたが、それを拒みました。私たちにも、神、イエス・キリストから招きがなされています。 時があるうちに、しっかり、その招きに応えましょう。

 このように、神との和解を拒否したエルサレムの末路をイエスはすべてわかっておられますが、それでもエルサレムを見捨てたりなさらないのです。 それが45~48節の、所謂「宮清め」の箇所に表わされています。

 この部分も大切な教えが詰まっています。とくに「教会とはどんな場所か」が教えられます。しかし、そのテーマを今日は語りません。 現在の会堂・牧師館の改修工事が終わった際に持つ「感謝礼拝」のとき、改めて取り上げます。

 今朝、この宮清めの箇所でとくに注目するのは「イエスの熱意について」です。

 それでは45~48節をよんでみます。

 昔私は、この宮清めの箇所を初めて読んだ時「イエスさまも酷いことをなさるなあ」と思っていました。しかし今はそうではないと思うようになりました。 神殿から商売人たちを追い出された理由…それは人々を愛しておられたからに他ならない、ということを思います。

 愛することは甘やかすことではありません。必要であれば、相手を叱ることも時に大切なのは言うまでもありません。48節をご覧ください。イエスが感情をあらわにしながら商売人を追い出されもなお、「民衆は皆、夢中になってイエスの話に聞き入っていた」ことが分かります。

 イエスの話は理解していなかったでしょうが、それでも「夢中になって聞き入る」ということは、商売人を追い出されたイエスから感じるものがあったからでしょう。

 私たちはどうでしょうか?神、イエス・キリストから示されることが「厳しい」と感じることはないでしょうか?「どうしてこんなことをなさるのだろうか」と思うことはないでしょうか?そんな時、今日の箇所の、主イエスは私たちを愛する、その熱意ゆえに行動なさることを思い出しましょう。

 イエス・キリストは、エルサレムの人々に対してそうであったように、私たちが罪を悔い改めず、神からの和解の招きを拒み続けることを「涙を流して悲しまれます」。私たち人間には、神との和解を拒み続けることが、どんな酷い結果をもたらすのか…正直ピンと来ていません。

 でも全知全能の神の御子であるイエス・キリストは分かっておられるのです。「イエスが号泣されたこと」を他人事と思わず、自分のこととして、また家族や周りの人のこととして、ぜひ受け止めましょう。

 そして「涙とともにもう一つ」心に刻みたいこと。それは「最後の最後まで、見捨てずにエルサレムの人々を熱心に愛し抜かれるイエスのお姿」です。

 この後の結末が分かっているから、見捨てる!そんな神の子イエスではないのです。

 まるで強盗の巣のように、「金儲けの道具と化していたエルサレム神殿」ですが、イエスの預言どおり紀元70年にローマ軍によって崩壊します。少し後に崩壊する、金儲けの場所…それが分かっているのであれば普通は放置するでしょう。

 ところが、イエスは、それを承知で、神殿をきよめられ、その境内で大切な教えを伝えられたのです。

 背く者をそれでも愛し続ける、見捨てずに、極限まで救いの手を差し伸べつづけられるお方、それが救い主イエス・キリストなのです。

 私たちの住むこの世も、本当は神が創造された素晴らしいものでありながら「まるで金儲けの道具」になっている「強盗の巣のようになっている」と感じます。人々の命が軽んじられ、経済効果ばかりがクローズアップされる。いくつかの国のリーダー選びでもそれが露呈しています。

 本当の平和への道を拒み続け、金儲けにつきすすむ人間たち。神、そしてイエス・キリストは本当に悲しんでおられると思うのは私だけでしょうか。

 それでも罪深い、弱い私たちを見捨てずに愛し抜かれる、神・イエス・キリストの愛に少しでも応え、その思いを人々に伝える、証しする私たちでありたいと願います。 (祈り・沈黙)

 

≪説教はPDFで参照・印刷、ダウンロードできます≫

Loader Loading...
EAD Logo Taking too long?

Reload Reload document
| Open Open in new tab

Download [215.44 KB]